
次廣 靖(プロデューサー)
原宿ラフォーレミュージアムに「Helvetica」の展示を見てきました(10月28日までで終了しています)。
Helvetica ヘルベチカ とは世界で最も有名な書体のことです。今ではコンピュータ用のフォントとしても使われているので、名前を見たことがある人も多いことだと思います。
1950年代末に作られたこの書体がどれだけ世界を席巻し、今でも全てのデザインに影響を与えているか、ということがわかる展示でした。ポスターや商品パッケージや企業ロゴなど、あれ見たことあるというものがたくさん並んでいました。
面白かったのが1964年の東京オリンピックの競技プログラムです。モダンデザインのお手本のような表紙で、かっちりとした Helvetica という書体が、このイベントの新しさや国際性を表現していたんだなということが良くわかりました。
会場では Helvetica の誕生と影響を解説するドキュメンタリー映画が上映されていました。今のデザイナーが、前時代のデザインばかりだった50年代末から60年代初め、 Helvetica が初めて登場した時の人々へ与えた衝撃をこのように言い表していました。
「まるで砂漠を歩き続けて来た後、冷たい水を飲んだ時のよう」
なんと、素敵な表現。Helvetica の持つ意味の大きさをよく伝えてくれます。
この言葉を聞いて、以前 STYLEBOOK でお話をうかがった字游工房の鳥海(とりのうみ)さんの言葉を思い出しました。鳥海さんは、ぼくたちが大好きなフォント、ヒラギノを作ったチームの一人です。
「これからも、水のような、空気のような、書体を作って行かなければいけない」
文字は人間のアイデンティティの一つ、とても人間的なものです。だから一つ一つの文字は音や意味を表す記号ではなく、それ以上の大きな意味を持っているのではないかと思います。そんなことを考えました。